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「なぜ、学校給食でほぼ毎日牛乳が出されるのか、正しい理由をご存じですか?」

先月新潟県某市で、和食が中心の学校給食献立には「牛乳は合わない」との理由で、市内小中学校30校の給食から試験的に牛乳が外されることになったとの報道がありました。

そして、この決定が実施されることになれば、この市では平成26年12月から27年4月までの4か月間にわたって、牛乳が学校給食から省かれることになります。

そこで、上記の決定は成長期の子供たちに大きな影響をあたえる重要な栄養摂取に関わることなので、標記について正確なデータや情報をもとに考察していきたいと思います。

まず、「なぜ、学校給食でほぼ毎日牛乳や乳製品が出されるのか」という問いかけに対しての答えですが、このテーマについては平成21年に公益財団法人学校給食研究改善協会から実態の調査研究を基にした分りやすい説明やデータなどが掲載された情報誌が発行されていますので、この内容に副って考察を進めます。
(以下のデータおよび記述は、「すこやか情報便」第7号からの引用です。)

学校給食で、ほぼ毎日牛乳や乳製品が出される理由の裏付けとなる調査結果

牛乳・乳製品の有用性に関する調査研究結果

A「子どもの健康づくりと牛乳に関する調査・研究」
1.下記グラフから、踵骨(かかと)骨量の比較対象では、牛乳・乳製品を含む完全給食がもっとも優位な高値を示し、特に中学2年で給食形態の影響が顕著であること、したがって、身体の発達が著しい成長期においては、学校給食における牛乳飲用の有効性が示唆された。

【グラフ1-A 給食形態と踵骨骨密度 (小学校5年生)】

【グラフ2-A 給食形態と踵骨骨密度 (中学校2年生)】

 

 

B「骨粗しょう症予防の為の牛乳・乳製品の有効性」に関する対全国高校生調査2005
2.下記グラフから、男女ともに小学生・中学生・高校生時の牛乳摂取量は多いほど骨量が多いということが確認された。

【グラフ3-B 小学校時の牛乳摂取量 と現在の骨量】

【グラフ4-B 中学校時の牛乳摂取量 と現在の骨量】

【グラフ5-B 高校生時の牛乳摂取量 と現在の骨量】

3.下記グラフから、1日3回以上牛乳・乳製品を摂取している群の骨量が多いことが確認された。

【グラフ6-B 「牛乳・乳製品の摂取 回数」と骨量】

4.下記グラフから、男女ともに朝食欠食が多いほど骨量が低いことが確認された。

【グラフ7-B 朝食習慣と骨量】

4.下記グラフから、男女ともに朝食欠食が多いほど骨量が低いことが確認された。

 

【グラフ7-B 朝食習慣と骨量】

 

 

 

 

5.下記グラフから、男女ともに小学生・中学生・高校生時の運動量は多いほど骨量が多く、牛乳摂取と運動実施状況を併せて検討した結果、牛乳摂取が多く、運動している生徒ほど骨量が多いことが確認された。

【グラフ8-B 継続運動有無と 高校生の骨量】

【グラフ9-B 牛乳摂取・運動状況 と骨量(高校女子)】

【グラフ10-B 牛乳摂取・運動状況 と骨量(高校男子)】

6.下記グラフから、高校生時代はもっとも骨量が増える重要な時期で、この時期にできるだけ骨量を多く獲得するためには、高校生時の牛乳・乳製品の摂取と運動が重要であることは勿論のこと、それまでの小学生・中学生時の牛乳・乳製品の摂取と運動が高校生時の骨量を高めるためにより有効であることが、確認された。

【グラフ11 年齢と骨量の変化】

 

 

以上A・B6の調査結果から、

すなわち、朝食を食べて牛乳・乳製品を毎日摂り、よく運動するという良い生活習慣が、すこやかに成長し、生涯にわたっても健康に生活できる重要な要素であることが、実態調査のエビデンスにより判明したといえる。

このように実態の調査結果をくわしく検証してみると、大事な成長期にある子供たちの栄養源として、完全給食や牛乳・乳製品の重要性がよく分かります。

では更に、学校給食に適うための要件である食品の量や価格についても比較してみましょう。

牛乳・乳製品に代えて、他の食品から同量のカルシウムを毎日摂る為の量・価格

下図1から、牛乳1本(200ml)分のカルシウム220mgを摂るためには、図に示された通りの該当量を毎日摂らなければならず、これを実際に毎日実行することは難しい。

【図1「五訂増補日本食品標準成分表」に基づく計算値】

また、重要な要件である価格も現在、学校給食用牛乳1本あたり約45円に対して、木綿豆腐、ほうれん草など他の食品はその倍以上しており、給食費の許容値をはるかにオーバーしている。
したがって、学校給食で必要とされるカルシウム摂取量のためのいろいろな要件を充たしている食品は、やはり牛乳しかないことが分かる。

 牛乳についてカルシウム専門学者の見解

最後にカルシウムなど栄養学専門学者の見解として日本女子大学名誉教授江澤郁子先生の見解を以下に紹介する。
「牛乳には良質なカルシウムがたくさん含まれ、それが消化される途中でカルシウムの吸収率を高める成分ペプチドに変わり、同時に食べる他の食品のカルシウムの吸収率も高める働きがある。」

 

 

以上、実際の調査結果やいろいろな要件をみてみると、「なぜ学校給食でほぼ毎日牛乳や乳製品が出されるのか明解な答えが出ています。

この度、牛乳使用中止が決定された理由は

①和食のメニューに合わない ②消費税率が上がったため ③パンや麺類を主食にした食事は生活習慣病の要因になっているから何千年も前からの日本人の主食である完全米飯給食にする
などが挙げられているようですが、このような決定にいたるプロセスや基準についてはいずれも「現代の子供の健康のため」に果たしてプラスなのか、マイナスなのかという大局的な視点での正しい判断を要します。

学校給食における牛乳摂取については、成長期に必要な食品として、カルシウムだけではなくタンパク質を摂取する上でも大切な役割があります。独立行政法人日本スポーツ振興センターの調査では、学校給食のない日の児童生徒たちのカルシウム摂取量は日本人の食事摂取基準の1日の推奨量より30~50%不足しており、これを受けて文部科学省の学校給食実施基準において、学校給食ではカルシウムを1日当たり約50%以上摂取するように基準値として定められています。

このようなことから昔と違って極端に運動量が減り、学校給食以外でのカルシウム摂取量も少ない現代の子供たちの生活習慣の状況をよくふまえて判断すれば、江澤先生のお言葉にある「心身ともにすこやかな人生を応援してくれる牛乳」が学校給食にとっていかに大切であるかよく分かります。

したがって今後とも食文化である「和食」の推進にあたっては、牛乳・乳製品と相対させるのではなく、「学校給食を通じての食育は子供たちのすこやかなこころと身体の成長のためにある」という最もたいせつな原点から、ぶれることのないように進めて頂きたいと考えます。

平成26年4月14日
平成26年9月2日改訂
文責 中村信子

 

注釈1:
A『子どもの健康づくりと牛乳』に関する調査・研究学校給食用牛乳の有用性の実証
研究代表者 戸板女子短期大学 学長 江澤郁子

【目的】
学校給食における牛乳飲用の認知の徹底を図り、学校給食用牛乳の残食の軽減及び生涯にわたる牛乳摂取習慣の継続を推進するために、児童生徒の健康増進に対する学校給食用牛乳の有用性を明確に実証することを目的とした。
【調査対象】
同一都道府県内において小・中学校の学校給食の完全給食(主食・おかず・ミルク)、ミルク給食(ミルクのみ)、学校給食未実施校のある都道府県を抽出し、小学5年生男女計670名(完全給食350名、ミルク給食219名、未実施101名)、中学2年生男女計725名(完全給食208名、ミルク給食292名、未実施225名)に調査を行った。
【内容】
成長期にある小・中学校の児童生徒が学校給食で牛乳を飲用することの意義と効果を明確にするため、平成19~20年にかけて踵(かかと)の骨量を測定し、比較検討した。

注釈2:
B『骨粗しょう症予防の為の牛乳・乳製品の有効性』に関する対全国高校生骨密度調査2005
小・中学生時の牛乳・乳製品摂取の有効性の実証
研究代表者 女子栄養大学栄養生理学研究室 教授 上西一弘

【目的】
現在の骨量に対する、小学生、中学生時代及び現在の牛乳摂取状況、運動状況等の影響を検討し、骨粗鬆症の予防のための牛乳・乳製品摂取の有効性を検証することを目的とした。
【調査対象】
全国44都道府県高校で実施された骨量測定会に参加した生徒男子計4,460名、女子計8,440名、合計12,900名に調査を行った。
【内容】
牛乳および乳製品の摂取量・運動量・朝食摂取有無の比較による骨密度調査し、その中でも骨量が最大になるとされる年齢の高校生を対象にその結果を比較検討したもの。