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「肥満大国」から「健康大国」へ

東日本大震災の深刻な影響に苦しむ日本に対し、世界中から温かい支援の手が差し伸べられ、中でもアメリカ合衆国からの支援の規模・内容は群を抜いています。あらためて、アメリカと日本の友好関係を再認識するとともに、被災現地の立場に立った一連の支援活動に、日本人として深く感謝するばかりです。 さて今回の見聞録では、そのアメリカのミシェル・オバマ大統領夫人の国家的なすばらしい取組について、報告させていただきます。

【オバマ米大統領夫人の壮大な国家的食育運動"Let's move!"】

現代のアメリカでは、子どもの肥満率が過去30年で5%から17%と3倍になり、'00年以降に生まれた子どもの1/3は「心臓病・高血圧・がん・ぜんそくなどの慢性肥満に関係した病気」になる恐れがあるという。すなわち子どもの3人に1人、成人では3人に2人以上が「体重過多か肥満」とされ、このための経済的な損失は、'03年の約750億ドルから'18年には3430億ドルと5倍近くまで増えるとの専門家による試算が出ている。 ホワイトハウスに独自のオフィスを持って、社会貢献にも係わるミシェル・オバマ大統領夫人はこのような状況を憂慮して、国家的な食育活動"Let's move!"を全米に呼びかけた。

【Official White House Photo by Pete Souza】

いわく、「わが国の心身の健康が危機的状況に陥っています。『現代の子ども達が大人になる頃には適正な体重になっているように』、これは一晩で解決できるものではありません。しかし、われわれ皆が一丸となって『改善しよう!変えよう!』と いう強い意志があれば、必ず解決できます。さあ、Let's move!(行動を始めましょう!)」と提唱して2010年2月9日、全米に呼びかけて大々的に開始した。
ミシェル夫人の熱心なこの提唱をきっかけに、アメリカの小売大手や外食チェーンも相次いで生活習慣病による医療費増大が家計・財政を圧迫して深刻な社会問題化していることを憂慮し、「肥満大国」脱却に向けて、「健康」に配慮した食品の販売強化を開始した。米政府も生活習慣病予防に向けた「食生活改善」に取り組み始めており、大統領は今後10年に亘り、毎年10億ドル(約900億円)をこのプロジェクト予算として拠出する。

では、全米を「肥満大国」から「健康大国」に変えるべく始まった、大統領夫人の国家的プロジェクト"Let's move!"運動の詳細を以下に紹介致します。

● この30年の間にアメリカの子ども達の生活習慣は激変した!

  1. 1.30~40年前の子ども達の生活習慣
    30年前のアメリカでは肥満がこれほど深刻ではなく、大半の人々の体重は平常だった。 当時の子ども達は毎日歩いて登校し、休憩時間には校庭を走り回り身体を動かして遊ぶ時間も多く、食事は自宅で家庭料理、ファーストフードは珍しくスナック菓子もほとんど食べる機会はなかった。
  2. 現代の子ども達の生活習慣
    一方現代の子ども達は、車やバスで通学し、体育の時間は学校予算の都合で削減され、家ではテレビ・TVゲーム・インターネット・携帯電話に平均7.5時間も費やしている。当然子ども達は慢性的な運動不足になり、適度の運動を定期的に行っている高校生は全体の1/3しかいない。また母親も働いているため家庭料理よりスナックなどの間食が多くなり、食事摂取量も30年前と比べると2~5倍に増えて脂肪分は56%、糖分は14%の増で、総カロリーは31%も多くなっているという。

【ホワイトハウス内の手作り菜園で子ども達と共に (Official White House Photo by Samantha Appleton)】

● このように生活習慣の悪化で深刻な「肥満大国」病に陥ってしまったアメリカを、「健康大国」にするために始まった"Let's move!"運動を推進する4つの柱とは

1. 子どもの両親を教育してヘルシーな家庭生活習慣を定着

  1. 親たちが日々食料品購入時に賢い選択が出来るように、食品の栄養ラベル表示内容を改善する。
    アメリカ食品医薬局FDA(※1)の協力を得て食品パッケージ栄養ラベルをより分りやすく明確に表示し、アメリカ飲料協会ABA(※2)では自動販売機などで販売のソフトドリンク類にカロリーの表記をする計画が進められている。
  2. アメリカ小児科学会AAP(※3)は医療機関の協力を得て、全国の医師や看護士に子どもの肥満に関する指導を強化し、親たちにヘルシーな食事と運動がいかに大切か理解させて、積極的に推進するよう、訴えている。
  3. アメリカ農務省USDA(※4)でも現代のライフスタイルに合わせてフードピラミッド(下図参照)の見直しがおこなわれている。(※6)
  4. ウォルト・ディズニー・ユニバーサルなどの大手メディア企業は子どもの肥満問題に関する公共広告PSA(※5)の製作・配信・番組企画により、この問題を広報アピールし解決のための情報・知識の普及に取組んでいる。
 

 

【米国農務省ホームページより】

2. 学校給食の改善

  1. 学校給食メニューの改善
    :1日のカロリーの半分を占める学校給食を栄養バランスが良く、ヘルシーな食事に変えるために、学校のみならず、地域団体・企業も協力する。
  2. 改善した学校数の倍増
    :アメリカ農務省が設置した健康食のガイドラインをクリアしている学校数の2倍増を目標に学校栄養協会や全国学校理事協会・各地域団体が、地域の学校に対して栄養アドバイスを実施している。
  3. 民間業者もメニュー改善
    :企業・学校・施設への給食サービスの大手企業は今後5~10年の間に糖分・脂肪分・塩分を徐々に減らし、全粒粉・野菜の量を2倍に増やすメニュー改善を確約している。

 

3.ヘルシーで安価な食糧が「食糧砂漠」でも手に入るように!

 

今アメリカ国民の約2300万人(その内650万人が子ども)が住む低所得者層地域には、安全安心安価な食糧を購入できるスーパーマーケットが近くにないところが多く、「食糧砂漠」と呼ばれている。このような地域では容易に栄養バランスの良い食品の摂取が難しく、子どもの肥満率が高くなっている。

  1. この肥満発生の原因となっている「食糧砂漠」を7年間でゼロにすること
    を目標に、オバマ大統領は「健康食」を販売する食料品店設置のための補助金や、農家が地域コミュニティーで出張販売できるファーマーズ・マーケット設置のための普及補助金などを'11年度予算に組み込み、農家・地域住民両サイドに対する支援に取組んでいる。

4. もっと運動しよう!

肥満対策としては、「食事の改善」だけではなく同時に「運動の継続」も必須であり、現代の子ども達の運動不足をどのように改善するかが、非常に重要な要素となっている。

  1. 米国保健省内に「フィジカルフィットネス&スポーツ委員会」を設けて、子ども達とその家族に身体を積極的に動かす生活習慣を心がけるよう呼びかけている。
    これを推進するために、規定以上の運動を週5日間、6週続けた家族に賞を設けて、'11年までの1年で受賞者を2倍に増やすよう、呼びかけている。
  2. "Let's move!"の一環として、全米プロ野球メジャーリーグMLB・プロフットボールリーグNFL・女子プロバスケットボールリーグWNBA・メジャーリーグサッカーMLSなどの協力を得て、
    「1日60分間、身体を動かそう」キャンペーンPSAを製作、「我々の世代でこの問題を解決しよう」と全国放映して肥満問題をアピールし、訴えている。

【Official White House Photo by Samantha Appleton】

● Partnership for a Healthier America

そして、このような4つの政府主導の取組に対して、アメリカでは民間レベルの各種財団が集まって子どもの肥満問題を解決するために、様々な角度から専門的に取組む 「Partnership for a Healthier America:食育のためのパートナーシップ~より健康なアメリカをめざして」が結成されている。アメリカ最大のヘルスケア専門財団などで構成されているこの民間組織が将来を担う子ども達の健康を願って、政府と共に多角的な視野でアメリカの深刻な社会問題解決のために、全力を挙げて取り組む予定という。

以上、オバマ大統領夫人による"Let's move!"運動の内容を詳しく紹介しましたが、その信念と熱意・規模・姿勢・多角的な実施方法などなど、現状を踏まえた実に幅広い、強力でしかも柔軟な取組に驚嘆します。そしてその多角的な取組が広く全米の民間企業にも浸透して、当に官民一体の「大食育キャンペーン」 "Let's move!"運動となったといえるでしょう。

"Let's move!"は大統領夫妻の強いリーダーシップによって一大キャンペーンの実施にまで普及していますが、この運動が将来を担う大切な国の財産である子ども達の健康育成のためにも、一過性ではなく、政権が交代してもずっと継続され、アメリカに止まらず世界的にも大きな成果(オバマ大統領が禁煙に成功されたというささやかな成果は既に達成されています)を獲得できるように、期待しています。 そして、目標達成にあたっては、日本の世界に冠たる「学校給食・食育」が何らかの役割を果たして、大きな恩返しとなれば、これこそ理想的な平和外交となるでしょう。

 

※1 FDA-Food and Drug Administration
※2 ABA-American Beverage Association
※3 AAP-American Academy of Pediatrics
※4 USDA-US Department of Agriculture
※5 PSA-Public Service Announcement
※6 フードピラミッド

'92年、米国農務省と保健省が中心に「何をどれだけ食べたらよいか」を目安に作成した絵入りグラフ。5群の食品群を分りやすく色分けし、運動(エクササイズ)の必要性も提示されている。'05年改訂(5群・・・黄土色:穀物、緑:野菜、赤:果物、青:乳製品、紫:肉魚豆卵類)黄:オイル